『かふぇイン! コーヒーは如何かしら~』

「いらっしゃい! 何をお探しですか?」

 明るく透き通った声音で、店員さんが傍らから声を掛けてきた。
 心を飾らない白のまま、ただ恍惚とビーンズ瓶を眺め、店内に漂う独特の香りに身を任せていた私は、咄嗟のことで返す言葉に詰まった。

「え……っと」

 何か言おう言おうとするのだけれど、適した語彙が思い浮かばず、やはり唇をぱくぱくさせて、酸欠の金魚みたいで我ながらみっともない。
 店員さんは私の言葉を待ってくれている。私は助け舟を求めるかの様に、彼女の顔を気持ち上目遣い気味に窺った。

 パッと見、歳は二十代だろうか、十七の私より年上に思える。
 暗色系でシックなハイネックとギャザースカートに、店舗の名の入ったエプロンを着けた身なり、濃茶色のソバージュのロングヘアーが似合っていて、より一層大人っぽさを醸し出している。

 サイドの緩い流し髪を、耳に掬う時に見えたピアスは少し草臥れてはいたけれど、小さな玉石が七色とはまた違う不思議な彩りを淡く放ち、彼女自身とも相まって自然と引き込まれてしまう。 

 片や私は学校指定の制服と黒タイツ姿で、どこにでもいる判子を押した様な小娘――
 まごつく私の意を汲み取ってくれたのか、彼女がふわりと微笑んでから口を開く。艶やかなリップがきらめいて見えた。

「ふふ、専門店だからって、緊張しなくても良いですよ! あなたはコーヒーが好き?」

 接客業をしているだけあり、持ち前の快活な雰囲気で取り巻いて、場の気まずい空気は払拭された。しかし、

「……あの、私は、コーヒーが好き……なんでしょうか?」

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